精神分析家としてクライエントに向かい合うときに、目指しているものは何かという質問をいただきました。なかなか考えさせられる質問ですが、ひとつ思い浮かぶのは、互いに本音を言い合える関係、そして互いに相手の思いを理解しようと努力し合える関係を築くということでしょうか。そういう関係になって、そういう発言ができる文脈が訪れたら、自分の言葉が相手の人生にとって意味を持つかもしれないと思うのです。
ところで、この信条には、ひとつの前提となるアイデアが含まれています。カウンセリングにおいても、心理療法においても、セラピストがクライエントを一方的に共感し、理解しようとしても、うまくはいかない。共感し、理解しようとする努力は、双方が両方向から払う必要があると思うのです。セラピーの成否を、半分クライエントに委ねてしまっているみたいで、頼りないセラピストだと思われるかもしれませんが、クライエントの協力なしにセラピーは成功しないということは、真実として譲れないと思っています。
(質問箱211231-220102)