これからの心理専門職の教育では、個人心理療法をベースにしない方が効率的ではないかという意見が、若い人や公認心理師の間で広まっているが、どう思うかと尋ねられました。これについての私の考えは少し複雑です。まず、現在大学院で行われている相談室での実習教育は、「(個人)心理療法」の教育ではないと思っています。その名称、「心理相談室」「心理相談センター」などの名が表しているように、しているのは心理に関する相談を受ける仕事で、そこに種々の心理療法の理論を応用しているということです。次に、そこで学んだ相談のやり方は、現場に出たとき、そのまま実行するわけにはいかず、その現場、機関、組織が目指している目的や条件、そこに訪れる利用者の特質に応じて、やり方を再編する必要があります。この点が、社会の中で十分に共有された認識になっていないことが問題だと思っています。
さて、ここでご質問のポイントですが、現在行われている個人心理「相談」の実習は、特定の心理療法を学ぶには不十分であり、また、即現場で実践できるものではないけれども、それを抜きに、心理士の養成が可能かと考えると、それは難しいのではないでしょうか。資格取得後に、どのような現場で働くにしても、利用者個人の相談に応じ、利用者と信頼関係を築き、利用者のためになるコミュニケーションを続けるための基本姿勢を学んでいない公認心理師を、社会は求めていないと思います。 もちろん、現在の教育が十分であるとは考えていません。心理的アセスメントの能力、集団に関わる能力、学んでいることの限界を理解し、現場のニーズに応えるスキームを持たせる必要があると思います。そのためには、学部教育との連動が鍵ではないかと考えていますが、大学という教育機関が抱える諸事情との兼ね合いで、一筋縄ではいかないというのが実感です。
(質問箱220121‐220123)